素晴らしい観光ガイドとは

先日、奈良県橿原市の歴史の町、今井町に40人ほどの来訪者があり、町並み保存会の若林会長がガイドをしました。レベルの高いガイドだったので、ここに分析してみます。

(1)その服装、出で立ち
高校生の修学旅行で長野県に行ったとき、戦国時代の合戦場のガイドさんで武士の姿をして、刀を使ってガイドをするおじさんが居ました。その姿は今でも目に浮かびます。ガイド内容に合わせた服装計画、大切です。若林さんがガイドする時の「制服」和服です。ご本人の説明では今井ゆかりの茶人今井宗久の姿だとか。これで最初から「歴史の町」を一緒に歩くことの期待が高まります。

和服に頭巾。今井宗久の姿です

(2)自分を語る
ある街、地域を案内するには色々なテーマがあります。でもウェブサイトで検索できるような自然や歴史を解説するだけでは印象に残らない。自分、つまりガイド自身をどう絡めてストーリーを作るのか。若林さんの場合は町並み保存の活動を語ります。

ある写真家の言葉に「他人を撮って自分を写す」というのがありましたが、若林さんの場合は「今井を話して自分を語る」と言えるでしょう。歴史の町、今井は材料に過ぎず、そこに来てくれた人に何を伝えたいのか、自分のやってきたことを伝えるというストーリーが準備されていました。

ビジターセンター「花甍」のジオラマで今井の歴史を解説

(3)相手を知る
今回案内した40数名のグループは鉄道マニア、鉄ちゃんたち。若林さんは鉄道会社での広報担当の経験が長く、鉄道マニアの思考パターンは熟知しています。グループの中には知り合いもいて、この人たちは「他人」ではありません。身内だからこそ、「満足させてあげたい。」、「この説明はこうひねったほうが鉄道マニアにはウケが良い。」、「ここで逆にこちらから質問をかまして緊張させてから説明しよう。」、「町家見学のマナーは鉄道マニアのマナーにたとえて説明してやろう。」とかのアイデアが浮かぶ。この日の若林さんはお客さんへのこぼれるような思い入れがありました。

これは逆に言えば、お客さんに関心のないガイドさんは良い案内が出来ないという事でしょう。例えば、お客さんが数人の時に、名前を覚えようとしないガイドさんには期待できません。

(4)ガイドとお客がセッションする
ガイドが一方的に話しては値打ちがありません。ネットで検索した記事や、ユーチューブの動画で得られないのは臨場感です。お客さんの反応を見れば関心度が分かります。関心なさそうな時は説明の仕方や話題を変えます。何に関心があるのかは直接お客さんに聞けばいいでしょう。そのためにはガイドさんが話題の引き出しや説明の仕方をいっぱい持っておく必要があります。

若林さんは、まずお客さんたちの疑問を引き出します。「このたてものは重要文化財です。だから火気厳禁。でもカマドが火気厳禁っておかしくないですか?。」、「私たちはこのカマドを使って茶粥を焚きます。大切なのは火気厳禁ではなくて、火の用心じゃないですか?」。それから今井の町並みが残ったのは大火が無かったからという事、江戸時代の火事の際の対処方法に話が移ります。当然ですが説明の間にお客さんから色々な質問が飛び出します。「しめしめ、実はその質問を待ってたんだよ。」と多分、心で思いながら若林さんの説明が続きます。ガイドってジャズセッションなんですね。

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