サクラの生き残り作戦を教えます

私たちサクラのファミリー紹介

サクラです。いえ、女の子ですが人間でなくて植物の桜の花。いよいよ春も盛りで私たちの花も今が盛り。今日から二十四節季では「清明」だから、次の「穀雨」を待たずに散ってお別れね。2月から梅、桃、桜と親せきで季節をリレーしてきたけどそろそろゴールだね。私たちは血統でいえば
バラ科 ⇒ モモ亜科 ⇒ サクラ属 というファミリーでね、同じ属にはウメさん、モモさん、アーモンドさん、アンズさん、スモモさん達がいるの。

サクラ属の掟(おきて)

リンゴさんやナシさんは、私たちと同じバラ科だけれど属が違うの。だからファミリーの掟が違う。サクラ属には他にはない掟があるのよ。それはね春に咲いて夏前に果実を作ること。私はソメイヨシノだから実は付けないけど一属の掟は知ってるよ。梅は2月に咲いて5月に実をつけ、モモは3月に咲いて6月に実をつけ、サクラは4月に咲いて6-7月にサクランボの実をつける。だからリンゴさんやナシさん達とは作戦が違うのね。リンゴは4-5月に咲いて、10-11月に実るでしょ。

サクラ属は怠け者?

こないだリンゴさんに「サクラさんのファミリーって変よね。」って言われちゃった。つまりねリンゴさん達は夏の光がいっぱいの6,7,8,9月に頑張って葉っぱで光合成をして作った糖分を果実に貯めておくのね。だから秋には甘いリンゴやナシが出来て人間さんを喜ばせる。でもね、私たちサクラ属は盛夏の前に果実を実らせてお仕事終わり。じゃあ7,8,9月には光合成のお仕事しないの?って聞かれちゃった。稼ぎ時に働かないのは怠け者じゃないのって。

北で生まれた私たちの凍りたくない本能

原生地については諸説あるけど、私たちサクラ属って北の寒いところの出身なの、遠い遠いご先祖さまはね。北の土地って冬がとても寒いから困るの。どうして困るのかって言うと、あんまり寒いと木を作ってる細胞が凍結しちゃって生きていけないのね。木の中を流れている水分や細胞と細胞の間の水分は大丈夫。問題はね細胞の中の液は凍ることなの。凍結と解凍を繰り返すと細胞が壊れちゃう。何とかマイナス何度もの気温でも凍らないようにしなきゃ、というわけなんだけど、ちゃんと方法はあるの。細胞液の糖分、ミネラル、アミノ酸濃度を高くするのね。純粋の水より色々解けている水のほうが凍りにくいって、理科で習わなかった? モル凝固点降下ってやつ。

北方出身の広葉樹は細胞内に糖分を備蓄

つまり私たちサクラ属の作戦っていうのはね、寒いうちに花を咲かせて夏前に実を育て終わる。これで種を保存する仕事は終わり。小作り終了。鳥や動物が果実を食べて中に入ってる種をあちこち運んでくれるからね。そのあと秋までも光合成を頑張って糖分を木の中に蓄えるのね。長い冬に細胞が凍らないように。メープルシロップはサトウカエデさんが蓄えた樹液でしょ(写真は採取の様子)。アカシアの木から甘い樹液を採取する方法はモンゴルの遊牧民ならみんな知ってるよ。採取した後の樹肌の整え方もね。枯れないようにちゃんと手当するのよ。私たちサクラの花芽はね実は前の年の夏には出来てるの。ものすごく小さいけど。それが冬の間に凍らないのも細胞液濃度のおかげ。

昆虫さんにとっての樹液の違い

昔の人里には薪炭にするためにナラやクヌギの木がたくさんあって、その樹液を求めてクワガタとかカブトムシとか色んな虫がいたらしい。今はねもちろん石油とガスの時代だから人間さんには薪(まき/たきぎ)や炭なんかいらない。だからナラやクヌギが伐採されて、代わりにソメイヨシノが植えられたってケースが多いのね。それで昆虫が少なくなったって。でも変だよね。ナラやクヌギの木と同じように私たちサクラの木も樹液を出すよ(写真)。糖分、ミネラル、アミノ酸を含んでるよ。ところがね、微生物の働きらしいけどサクラの樹液ってすぐ固まるの。だから昆虫さんには食べられない。カブトムシさんには悪いけど、樹液が流れ始めたらすぐに固めて止めないと私たちには死活問題だからね。

生存のための本能は変えられない

サクランボやウメもね、暖かい国に来たのなら、春の始めに咲いて夏の間じゅう実を大きくさせて、秋に実をつけたらすごく喜ばれるよ、きっと。どうしてって? 夏の間中に光合成で作った糖分をみんな果実に送るのよ。そしたら梅の実なんかリンゴほどになるかもよ。人間もビックリ。でも、そうしないのは生き残るための防衛本能なのね。だから何万年かあとに日本に氷河時代が来るとね、まずリンゴさんやナシさんのファミリーが絶滅。ところが私たちのサクラ属ファミリーはしぶとく生き残るってこと。百年や千年のレベルで作戦を変えるようではダメなのよ、次の百万年を生き残るためにはね。

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