実の無いヤマブキの秘密を教えます

僕は八重のヤマブキ。知ってるよね。

これが僕、八重ヤマブキ
この画像はWEB「オモシロ自然観察」からお借りしました

僕、ヤマブキです。あっヤマブキには一重と八重があるんだけど、僕は八重のほうね。僕たちが咲くのは一重ヤマブキのあとだね。季節でいうと春、二十四節季だと清明、穀雨のあたりに咲いて人間に喜んでもらってる。ヤマブキを近くに見れない人でも、あの有名な歌は知ってるよね。
  七重八重 花は咲けども 山吹の
    実の一つなきぞ 悲しき
戦国武将の太田道灌(1432-1486)があるとき鷹狩りに出て雨にあったんだよね。そのとき近くに民家があったので雨具の蓑(みの)を求めたところ、その家の娘が何も言わずにヤマブキの花を差し出したんだよ。太田道灌はこの意味不明な対応に怒ってお城に戻っちゃった。でもね、ある教養のある部下がこの話を聞いて教えてあげた。
「殿様、これはシカジカという古歌にある『実の一つなき』を『蓑一つなき』にかけてお貸し出来る雨具はありませんと断ったんです。」
確かそんな話だったよね。

でもね、この歌はオリジナルから少し変更されててね、本当は
  七重八重 花は咲けども 山吹の
    実の一つなきぞ あやしき
って言うんだよ。「悲しき」じゃなくって「あやしき」。ほんとだよ。歌を詠んだのは兼明(かねあきら)親王さまで、この歌は後拾遺和歌集(1086)に収められてるんだ。

八重のヤマブキは花をたくさん咲かせるのに実も種も付けないのは不思議だなあ、と歌ったんだね。逆に言うと実も種も付けないのなら何のために花を咲かせるんだ? エネルギーの無駄じゃないか、ってことになるよね。知らない人が多いので僕が八重ヤマブキを代表して説明するね。

一重のヤマブキの花
この画像はWEB「オモシロ自然観察」からお借りしました

一重のヤマブキの実
この画像はWEB「オモシロ自然観察」からお借りしました

ああ、その前に言っとくけど、僕たちの親せきの一重のヤマブキさんたちは、ちゃんと実をつけるからね。間違わないでね。実をつけないのは僕たち八重のヤマブキだけ。それから白い花のシロヤマブキさんも実を付けるけど僕たちとは別の種だからね。一重のヤマブキの花は五弁でシロヤマブキの花は四弁だよ。種の数も四つと五つ。

僕たち八重ヤマブキの遺伝子の秘密はね

DNAの二重らせん
この画像はWEB「ネコでもわかる遺伝子のお話」からお借りしました

ここからは理科の時間になるけど、いいかな? デオキシリボ核酸ってあるよね。英語のほうが分かりやすいかな、DNA(deoxyribo nucleic acid)だよ。生物の遺伝子情報を伝えるシステムで二重らせんの構造になってるんだ。つまり2本のヒモのようによじれてるってこと。ヒモに遺伝子がくっついてるんだね。ヒモの一本は母親(めしべ)あと一本は父親(おしべ)からもらって受精する、すると新しい命が出来るんだよね。その命は母型と父型の両方の遺伝子を引き継いでるよね。ヒモを母親から一本、父親から一本もらって二本あるからこのDNAを二倍体というの。次世代の子作りの時はやはり雄雌で一本ずつのヒモを出し合って子孫を残して行くってわけ。

八重ヤマブキは子孫が作れない突然変異体なんだね

でもね、まあ色々経緯はあるんだけど、突然変異で三本のヒモがよじれてるDNAがあるんだ。お母さん側のヒモを一本もらったけど、間違ってお父さん側のヒモを二本とももらったんだね。逆もあるだろうけどね。このタイプの子を三倍体と呼ぶんだって。三倍体でもその子自身は育つんだけど、次の世代の子は作れないんだよ。DNAの三本のヒモがこんがらがって、うまく一本だけ抜いて差し出せないのかもね。実は僕たち八重のヤマブキはこの三倍体なんだよ。だから一重の時の習慣で花はつけるけど生殖機能はもうないの。メシベは退化して無いよ。オシベも本当はいらないんだけど、せっかくだから花ビラに変えちゃった。

八重の花ビラはオシベを変形させちゃった

八重の花を半分切り取って中を見てみると
この画像はWEB「オモシロ自然観察」からお借りしました

そんなバカなって? そもそも古いタイプの植物は花開くことがないんだよ。マツなんかは枝の先っちょに雌花、少し下に雄花をつけて交配するけど、花ビラはないよ。裸子植物って連中だよね。花ビラやオシベは葉っぱが変形したものだと言われてるんだ。元が同じだから僕たち八重ヤマブキがオシベを花ビラに変形させても驚くようなことじゃないんだよ。そもそも地球が出来たのが46億年前でしょ。地上の植物が現れたのか6億年前。昆虫が進化してハチになり空中を飛ぶようになったのか1億年前。そのころ植物側が気づいたんだろうね「風で受粉するよりハチさんに来てもらってオシベの花粉を運んでもらうほうが確実だな。お礼にミツをあげるとするか。」ってね。

僕たち八重ヤマブキはこうして増えるんだ

ヤマブキの挿し木
この画像はWEB「ナノ・ダメのブログ」からお借りしました

ということで僕たち八重のヤマブキが実も種も付けないことは分かってもらったと思うけど、そこで尋ねられることがあるんだ。「じゃあ八重のヤマブキ君たちはどうやって増えるの?子孫を残すの。」ってね。最初の作戦は、根を四方八方に伸ばしてそこから新芽を出して株を増やすこと。一重も八重も日本の在来種で生命力にあふれてるからね。とは言っても、そもそも突然変異での誕生だからどこにでもあるってものじゃないよ、僕たち八重は。そのかわり八重の珍しい花を見つけた人間があちこちに増やしてくれるんだね。挿し木、取り木、株分けってやり方があるよ。つまり僕たちは遺伝子が全く同じのクローンだってこと。平安時代には家の庭に植えられてたっていうから千年も日本人から愛されてるってわけだよね。

実はこれって最先端の種の保存方法なんだよ。人間たちが農業を始めたのが一万年前。おそらくは挿し木を始めたのが数千年前。花を観賞するという人間の性質を利用して個体を増やすってすごくない? これをやってるのは僕たち八重のヤマブキの他にはヒガンバナさんがいるよ。彼女たちは畑の畔に植えるとモグラ除けになるって実利があるけど、僕たち八重のヤマブキは鑑賞以外の役には立たないからね。

日本人が花好きで助かるよ。これからもよろしくね。

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